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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1096号 判決 1982年2月22日

控訴人 太陽農場株式会社

右代表者代表取締役 加藤栄一こと 高遠衡

右訴訟代理人弁護士 布留川輝夫

被控訴人 関義一

被控訴人 株式会社明和産業

右代表者代表取締役 本砂博

右両名訴訟代理人弁護士 岡本駿

主文

原判決を取消す。

本件を千葉地方裁判所一宮支部に差戻す。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴却下の判決を求めた。

二  被控訴代理人が本案前の抗弁として主張した理由の要旨は次のとおりである。

1  本件訴状及び口頭弁論期日(昭和五五年一月二二日)呼出状等が、控訴会社代表取締役である加藤栄一こと高遠衡の住居所等である水戸市城東二丁目五番一八号加藤産業株式会社方(以下右場所を「本件送達場所」という。)に郵便により送達されたが、控訴人は右期日に出頭せず、かつ答弁書等の提出をしなかったため、原審裁判所は口頭弁論を終結し、判決言渡期日を同年二月一二日に指定し、右期日呼出状を本件送達場所において送達し、右期日に判決を言渡したうえ、同月二〇日同場所において判決正本を送達したが、控訴の提起がないまま控訴期間が経過し、右判決は確定したものである。

従って本件控訴は不適法である。

2  仮に、本件送達場所が控訴会社の営業所(事務所)はもとより、控訴会社の代表者高遠衡にとって民訴法一六九条一項所定の住所、居所等に該当しないとしても、控訴会社代表者高遠衡に対する本件訴訟関係書類の送達は次に述べるところにより適法有効であり、本件控訴は不適法である。

(一)  即ち、昭和五四年三月当時千葉地方裁判所一宮支部には右高遠衡を事件当事者とする強制競売申立事件(同人が債務者)、配当異議申立事件(同人が申立人)等が係属していたが、同人は同裁判所に対し同月一三日、事件関係書類の郵便送付は本件送達場所宛にされたい旨の上申書を提出していたものである。ところで其の後、被控訴人らは控訴会社を相手方として本件訴訟事件がその本案となるべき係争物に関する仮処分の申請を申立て、前記裁判所は昭和五四年八月九日仮処分決定を発したが、右仮処分決定正本の債務者たる控訴会社宛の送達は控訴会社あるいはその代表者たる高遠衡の住居所不明等のため中々なされなかったため、右仮処分債権者たる被控訴人らの訴訟代理人は、前記高の提出した郵便物送付先についての上申書に基づき、昭和五四年一〇月一日頃改めて、本件送達場所に送達されたい旨の上申書を前記裁判所へ提出し、同裁判所は右上申書に基づき改めて本件送達場所に右決定正本を郵便により送達したが、右送達先の加藤産業株式会社(代表者加藤正吉こと洪鍾義、以下加藤正吉という。)は異議なくこれを受領し、また控訴会社は右仮処分決定につきなんら異議を申立てなかった。

右事実関係によれば、本件送達場所は少なくとも右仮処分事件の関係においては、右高遠衡の事務所に該当するものというべく、あるいは少なくとも仮処分決定正本の送達を受ける代理権を有する加藤産業株式会社ないし前記加藤正吉が右正本を受領したものというべきであるから、仮処分債務者たる控訴会社に対し適法な送達がなされたと同一の効力を生ずるものというべきである。

(二)  本件訴状は、原審において被控訴人ら(原告ら)代理人の訴状送達に関する上申書に基づき、当初から本件送達場所に送達されたものであるが、本件が前記仮処分事件の本案事件であって両者は極めて強い関連性を有し、かつ前記仮処分決定正本の送達(昭和五四年一〇月一一日)と本件訴状の送達(同年一二月一七日)とが時間的に近接していることに鑑み、前記仮処分決定正本の本件送達場所における送達が適法有効であると同一の理由によって本件訴状送達はこれまた有効適法であり、これに続く口頭弁論期日呼出状、判決正本の同一場所における送達も適式になされたものというべきである。

三  控訴代理人は、本件訴訟関係書類の送達に関し、「被控訴人らの主張は争う。なお控訴人は加藤正吉から原判決正本を受取ったが、本件訴状は未だに受領していない。」と述べた。

四  《証拠関係省略》

理由

一  まず職権をもって本件控訴の適否について判断する。

(一)  本件記録によれば、原審裁判所は本件につき昭和五五年二月一二日の口頭弁論期日において原判決を言渡したこと、控訴人は本件控訴代理人を訴訟代理人として同年五月一日当裁判所に控訴を提起したことが認められる。

(二)  被控訴人らは、原判決正本は昭和五五年二月二〇日本件送達場所において控訴人に対して送達された旨主張する。

なるほど、本件記録によれば、原判決正本は郵便により右日時に本件送達場所に送付され、加藤産業株式会社の代表者である加藤正吉がこれを受領したこと、なお右加藤は高遠衡に対し昭和五五年四月二二日控訴代理人事務所で右判決正本を渡したことが認められるが、本件送達場所が控訴会社又は控訴会社代表者にとって民訴法一六九条一項にいう住所、居所、あるいは営業所、事務所に当るという事実を認めるに足る証拠はなく、本件記録によれば、右場所は、控訴会社の代表者である加藤栄一こと高遠衡が、同人が競売債務者である強制競売事件等につき、千葉地方裁判所一宮支部に対し昭和五四年三月一三日、同裁判所からの同人宛の郵便物の送付先として上申した宛先にすぎないことが認められる。

(三)  被控訴人らは、本件送達場所がたとい控訴会社又は控訴会社の代表者の住所等民訴法一六九条一項が定めた送達をなすべき場所に該当しないとしても、同所への送付・受領をもって送達として適法有効であるとし、そのゆえんをるる主張する。

しかしながら、訴訟法規が、訴訟関係人に対する訴訟関係書類の送達の方式等につき極めて厳格かつ詳細に規定したのは、送達によって訴訟行為の効力が完成し、あるいは訴訟上の期間の進行が開始するなど送達の有無によって訴訟関係人に対する法的な影響力が多大であるからであって、被控訴人らの主張する事由がたとえそのとおりであるとしても、本件送達場所への送付をもってしては、未だ、控訴人に対する原判決正本の送達が適法有効になされたものということはできないのみならず、控訴人が右正本の送達の欠缺あるいはその無効を主張しえない特段の事由ありとはなしえないものである。

(四)  そうだとすれば、本件控訴は、原判決正本が前記のように加藤正吉から使送されて控訴人代表者が任意受領した日より、法定の控訴期間内に提起されたこと明らかであるから、適法であるというべきである。

二  次に、職権をもって、原審の訴訟手続の適否について判断する。

本件記録によれば、原審において本件訴状及び第一回口頭弁論期日(昭和五五年一月二二日)呼出状が郵便による送達の形式で同五四年一二月一七日本件送達場所に送付され、前記加藤正吉がこれを受領したことが認められるが、右場所が当時控訴会社又は控訴会社代表者にとって民訴法一六九条一項所定の住所、営業所等に当るという事実を認めるに足る証拠はなく、却って前記一の(二)で述べたところと同様、高遠衡がかつて別件の競売事件について便宜、裁判所からの発信物の宛先として上申した場所にすぎないこと記録上明らかである。

被控訴人らは本件訴状、第一回口頭弁論期日呼出状の控訴人に対する送達が適法有効であるとして、そのゆえんを前記原判決正本の送達同様主張するが、右主張が失当であることは右判決正本送達の適否について説示したところと同様である。

そして本件訴状及び第一回口頭弁論期日呼出状が加藤正吉から控訴人に必要期間内に使送された事実を認むべき資料はない。

そうだとすれば原審の訴訟手続は法律に違背するものというべきである。

三  しかして、本件は原審では第一回の口頭弁論で終結され、かつ呼出状未送達のまま控訴人が欠席し、その主張立証のないまま判決が言渡されたこと本件記録上明らかであるから、右審理の状況に鑑み、原判決は不当であって、なお審理を尽させるべきであるから、原判決を取消した上、本件を第一審裁判所たる原審に差戻す必要があるものと考える。

四  よって、民訴法三八六条、三八九条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 安部剛 岩井康倶)

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